配偶者居住権とは、相続開始時に故人の財産に属した建物に居住していた配偶者に、相続後も無償で使用する権利を認めることです
例えば、配偶者は居住の権利を得て、相続人は所有権を取得します。
すると、遺産分割において配偶者は老後の生活資金を現金や預貯金の形で確保できる可能性が高まります。
高齢化が進み平均寿命が伸びたことにより、その人が亡くなったときに残される配偶者も高齢という事例が増えてきました。
このことによって、高齢化した生存配偶者の老後の生活を保護する必要性が高まってきました。
1.配偶者居住権
(1)配偶者居住権とは
①意義
配偶者において、自宅での居住を継続しながら、老後の安定した生活を送るということが可能となります。
②要件
配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住しており、かつ、当該建物について配偶者に取得させる旨の遺産分割又は遺贈がなされたこと。
・被相続人の配偶者であること ・被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していること ・被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと ・遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされること、又は、配偶者居住権が遺贈※の目的とされること |
※配偶者居住権を相続させる旨の遺言でも、配偶者居住権の取得が認められる場合があります。
③発生障害事由
被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していたとき。
⇒被相続人以外の共有者が配偶者であれば成立しますが、配偶者以外の者が共有持分を有していた場合には成立しません。
④存続期間
原則として、配偶者の終身にわたって存続します(民法1030条本文)
法務省 残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。
(2)遺産分割協議への影響
配偶者は、建物の名義ではなく居住権をえるだけなので代償金を支払わう可能性が低下し、居住用不動産以外の預貯金等の財産を受け取ることのできる可能性が上がりました。
(3)特別受益との関係
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対して配偶者居住権を遺贈した場合には、特別受益の持戻しの意思表示を推定する規定が準用されます。
【特別受益の持戻し免除の意思表示推定】
婚姻期間20年以上の夫婦間における相続 | 婚姻期間20年未満の夫婦間における相続 | |
配偶者居住権 配偶者短期居住権 | 適用あり | 適用あり |
特別受益の持戻し免除の意思表示推定 | 適用あり | 適用無し |
2.配偶者短期居住権
相続が開始してから最低6ヶ月間は、故人の配偶者が、故人の家にただで住み続けることができます。
配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり、相続財産の対象と評価されません。
したがって、配偶者の具体的相続分からその価額を控除されることもありません。
(1)成立要件
被相続人所有の建物に相続開始時に無償で居住していたこと
(2)期間
①故人の配偶者が故人の家の遺産分割にかかわっていいた場合
⇒相続が開始してから6ヶ月もしくは遺産分割が決定するまでのいずれか遅い日
②故人の所有していた家が配偶者以外の相続人や第三者に遺贈された場合、故人の配偶者が相続放棄をした場合
⇒その家の所有者となった人から消滅請求を受けて以降6カ月の間
(3)配偶者居住権との比較
配偶者短期居住権 | 配偶者居住権 | |
権利の性質 | 使用借権類似の法定債権 | 賃借権類似の法定債権 |
対抗要件 | なし | 登記が対抗要件 配偶者に登記請求権あり |
存続期間 | ①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 →遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日 ② 上記①以外の場合 →居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅申し入れの日から6か月を経過する日 |
原則:配偶者の終身の間 例外:遺産分割等で別段の定めをしたときは、その定めるところによる |
3.配偶者への配慮まとめ
配偶者への配慮 |
(1)配偶者の税額軽減措置 (2)配偶者居住権の創設 (3)20年以上夫婦であった場合、住宅の生前贈与は2,000万円まで贈与税がかからない (4)婚姻期間が20年以上の夫婦間での住宅の生前贈与は特別受益の対象外 |
Q&A
よくある質問
配偶者居住権に関してよく受けるご質問をまとめています
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# 01
Q.なんで配偶者居住権を付けると配偶者は老後の資金を得やすいのですか?
配偶者居住権は建物に住むだけの権利でして、所有権に比べると価値が下がります。
遺産分割において価値の低い配偶者居住権を得たとしても、さらに残りの預貯金等にも権利を主張できる可能性が高まるということです。
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# 02
Q.実際、どういう場面で配偶者居住権が問題となるのですか?
例えば、故人が配偶者の居住している建物を愛人など第三者に遺贈した場合、故人の死亡後に愛人が配偶者に立ち退きを求めた際に配偶者が建物の居住できるのかどうかなど問題となります。
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# 03
Q.配偶者居住権が成立しなかった場合、配偶者は家から出るしかないのですか?
その場合、配偶者には配偶者短期居住権というのが成立しまして、一定期間は建物に居住する権利があります。
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# 04
Q.土地が他人に売られても配偶者は居住できるのですか?
配偶者居住権は登記をすれば誰にでも主張できます。
したがって、居住建物が他人に譲渡されたとしても登記をしていればずっと住むことができます。
この登記が司法書士の業務になります。
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# 05
Q.配偶者居住権を遺贈で取得したときは、何か注意点はありますか?
婚姻期間が20年以上の夫婦で、配偶者居住権を遺贈した場合には、遺言者が持ち戻しを免除しないという意思表示をしていない限り、配偶者居住権を遺産には含めずに、遺産の分割協議を行うことになります。
この結果、配偶者居住権とは別に、相続財産の総額の2分の1を配偶者が相続する遺産分割が基本となり、配偶者の老後の生活の保障が手厚くなります。
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# 06
Q.配偶者が譲渡禁止規定に違反して第三者に配偶者居住権を譲渡したら、配偶者居住権は消滅しますか?
配偶者居住権の譲渡それ自体を理由とする消滅の意思表示はできませんが、無断で譲受人に居住建物の使用または収益をさせたときは、消滅の意思表示をすることができます。
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# 07
Q.相続の放棄をした場合は短期居住権はありますか?
相続の放棄をした配偶者についても配偶者短期居住権は認められます。
例えば、多額の債務を負っている被相続人が、居住建物を含む遺産の大部分を第三者に遺贈したために配偶者がやむを得ず相続放棄したという場合、配偶者の短期的な居住を保護する必要性があります。
配偶は居住権以外にも配偶者を保護する制度があります
配偶者への配慮のまとめ
①配偶者の税額軽減措置 ②配偶者居住権 ③20年以上夫婦であった場合、住宅の生前贈与は2,000万円まで贈与税がかからない ④婚姻期間が20年以上の夫婦間での住宅の生前贈与は特別受益の対象外 |
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